古井戸の秘密:後日談

救われたいひとの独白

 

※シナリオのネタバレはありませんが過去のシナリオの内容に薄っすら触れている部分はあります。

 

 

世界は平和だって、理由もなく信じていた。

人生は等価交換だと言った漫画は何だったっけ。
何かを得るにはそれと同じ分の何かを失わなきゃいけない。
じゃあ、何かを失ったら、何かを得られるんだろうか?

……。

思えば、変なことが起こり始めたのは今年に入ってからだ。
まずは2月。某社の新型コンピュータのプレカンを兼ねたパーティだった。
俺はあのビルに閉じ込められた。いや、俺たちは、かな。
それで――出会った。常識なんか遥かに越えた何かを。

でも、あの時はまだ、悪い夢だと思っていたんだ。
だってあんなもの、それこそゲームの中でしか見たことなかったんだから。

あの時も、そうだ。俺は怖くて、足が動かなくて。
助けてくれたひとにお別れを言うことすらできなかった。
そうして彼らはいってしまった。

……。

次に“そういう”ものを見たのは、4月。
満開の桜がきれいだったのを覚えてる。
……あの桜吹雪も、覚えてる。

あのとき俺が見届けられたのは、本当に最後の最後だけ。
でも、名残惜しそうに振り返ったあの横顔と、
泣きじゃくるあの子の声は、その後しばらく耳から離れなかった。

でも実際のところ、あの時の俺は
あの子の悲しみの半分も分かっていなかったんだと思う。
身近なひとが自分を助けるために居なくなるということの本当の辛さなんて、
俺は知らなかったんだから。

知っていたら、……何か変わったのかな。
引き留めて、それで、何ができた?

…………。

そして、7月。

…もう、思い出したくもない。忘れてしまいたい。
すごく頼りにしていたんだ。すごく、助けられていたんだ。
だから、きっとあの人なら大丈夫だって、信じてた。
居なくなるなんて、思いもしなかったんだ…。


もし、人生が等価交換だというのなら
俺はこれまで失った分だけ、一体何を得たんだろう。
失った記憶ばかりが大きくて、苦しくて、
代わりに何かを得られたなんて思えない。

戻れるのなら、何も知らなかった頃に帰りたい。
何も知らなくて、何も失わなかった頃に。
もう誰にも置いて行かれたくなんかないんだ。

もう嫌だ。助けてほしい。俺じゃ何もできない。
何かに祈ったら、救われるのかな…。

――ああ、神様。 こんなときにだけ祈るなんて、都合が良いって笑いますか?